2013年10月03日

dancetoday2013 『関かおり 新作』『島地保武+酒井はな <アルトノイ>新作』その見どころとインタビュー

  彩の国さいたま芸術劇場情報誌『埼玉アーツシアター通信』 2013年9月発行号よりご紹介いたします。
・「関かおりの香り」 石井達朗(舞踊評論家)
・「島地保武+酒井はな インタビュー」 村山久美子(舞踊史家・評論家)

「関かおりの香り」 石井達朗(舞踊評論家)

五感を覚ます姿態が、ダンスの可能性の扉をまたひとつ開けるかもしれない

どんなに素晴らしい踊り手であっても、それだけではコンテンポラリーダンスの世界では評価されない。既成のテクニックにもジャンルにも囚われることなく、どのダンサーにも追従することなく、創意のあるオリジナルな時空を切り開くことが、コンテンポラリーダンサーの条件である。たった2メートル足らずの身体という器(うつわ)に出来ることなど高が知れてるという凡百の思惑をいつも裏切ること。そして、この小さな器こそが無限の創意と想像力をかきたてる源泉であることを、ダンサー自身が体を張って探求し、主張し、観客と共有すること。
現代、アジアや西欧ばかりでなく、北欧・東欧や南米にまで興隆しているコンテンポラリー・ダンスには、そんなフロンティアの精神が浸透している。文学や演劇とちがい、言葉を介さないからこそ、地域や言語を超えて、新鮮な創造性に即座に反応できる共通の地盤があるのだ。

関かおりが向かうところ

 昨年、そんな創造性を振付・ダンス双方において感じさせてくれたのが、関かおりである。2月には、横浜ダンスコレクションEX2012で岩渕貞太との共作『Hetero』が「若手振付家のための在日フランス大使館賞」を受賞。7月には、一年おきに開催されるトヨタコレオグラフィーアワード2012で、『マアモント』がグランプリに相当する「次代を担う振付家賞」を獲得した。両作品ともでダンサーたちは体の線が浮かび上がる、肌着のようなボディタイツを着用し、超スローモーションに微妙な速度の変化をつけながら、ほぼ全篇音なしで動く。余分なものがそぎ落とされ、ムーヴメントと姿態が織り成す世界は、言語以前の、そして言語を超えた表象の極地とでも形容したくなるものだ。

 多くのダンサーたちが付加することによって表現しようとするなかで、動きの引き算を様式美にまで高めた舞台は異色である。シンプルであるからこそ、逆に捉えきれないほどの表情が、ダンサーの肌から水紋を描くように観客に伝わり続ける。このような動きの構成はどこから湧き出てくるのだろうか。関はもともとクラシックバレエをやっていて、それからモダンダンス、コンテンポラリーダンスに移行していったと言う。とくに関の口から名前のあがった大橋可也や山田うんなどの作品で活動したことは、舞踊家関かおりの今の在り方にポジティヴな影響を残しているようだ。
関はダンサーとしての意識と技術をより深いレベルでリンクさせるべく、内外で地に足がついた経験を積み重ねてきたように思える。イスラエルのテル・アヴィヴでGAGAの集中ワークショップに参加した経験があると聞いたときは驚いた。GAGAは、バットシェバ舞踊団を内実ともに世界のトップの舞踊団に成長させたオハッド・ナハリンが、もっとも重要な身体のための訓練として行うメソッドである。GAGAでは体の隅々にまで意識をゆきわたらせ、誰の真似でもなく自分自身の内側から生まれる動きの自発性をなによりも大切にする。

 『Hetero』 はデュオ作品であったが、『マアモント』は初演時は7名、トヨタコレオグラフィーアワードでは4名のグループ作品であった。そして<dancetoday 2013>での新作は、数名の群舞による作品になる予定である。ということは、『マアモント』で試みられたことのさらなる発展形が観られるのはないかと、大いに気持ちがそそられる。関は言う。「新作ではやはり五感がテーマになります。舞台作品というのはどうしても視覚芸術ということになるけれど、それ以外の感覚も使って観てほしい。視覚ばかりでなく触覚や嗅覚までも働かせるようなものにしたい」

新作では岩渕貞太が参加

新作のもう一つの注目―それは関と並んで今もっとも期待される岩渕貞太がダンサーの一人として参加することだ。空気感を感じさせる関に対し、岩渕は求心力のある肉体派。この違いが魅力的なパートナーシップを醸してきたし、新作ではさらに共同作業が熟成されるはずである。

 『マアモント』では、繊細な感覚的な要素に加えて、ダンサーそれぞれのポジショニングや体が微妙にかしぐなどの姿態が、関らしい入念され構築されているような印象を受けた。その辺のところを彼女に聞いてみた。「ダンサーが立ったときにどう見えるかということは、いつもかなり意識しています。体のどの部分を意識して立つと、観客によりクリアに見えるのかということ。舞台の空間というよりも、ダンサー同士の空間を意識しながらつくります。だから、立っているときに匂い立つものがあるダンサーというのが、ダンサーを選ぶときの大切な要素です」
匂い立つもの・・・。関の作品では男女のダンサーがそれぞれエロスの香りを漂わせている。それが性差よりも個体差からにじみ出ているのが魅力だ。生命という灯火(ともしび)を個体のなかに確認し、いつくしむような動と静の陰影が織りなす舞台は、不可思議な感覚の世界に導いてくれる。それはデジタルな生活に浸りきっているわれわれの五感を目覚めさせてくれる。同時に、コンテンポラリー・ダンスという可能性の扉を、またひとつ開けてくれそうな気もするのだ。

●彩の国さいたま芸術劇場情報誌『埼玉アーツシアター通信』 2013年7月発行号より

関 かおり(せき かおり)

埼玉県川越市出身。5歳よりクラシック・バレエを学ぶ。18歳よりモダンダンス、コンテンポラリー・ダンスを始めると同時に創作活動を開始、2003年より発表を始める。08年ソロ作品『ゆきちゃん』でSTスポット「ラボアワード」を受賞。12年には、岩渕貞太との『Hetero』により横浜ダンスコレクションEX2012「若手振付家のための在日フランス大使館賞」、また『マアモント』でトヨタコレオグラフィーアワード2012「次代を担う振付家賞」をダブル受賞。13年、長塚圭史作・演出『あかいくらやみ』公演に振付で参加、好評を得る。独特の舞踊言語と繊細な感性とをもちあわせた注目の振付家。

「島地保武+酒井はな インタビュー」 村山久美子(舞踊史家・評論家)

 日本のバレエ界を代表するバレリーナ酒井はなと、世界のダンスシーンに風穴を開けた鬼才振付家ウィリアム・フォーサイスのカンパニーで最も信頼されるダンサーとして活躍する島地保武が、ユニット<アルトノイ>を立ち上げての公演。今公演を皮切りに、二人での活動も展開してゆくという。公私ともにペアのユニットの誕生である。

バックグラウンドの異なる二人

 演出振付を主に担当する島地保武は、コンテンポラリー・ダンスを軸とするダンサーだ。山崎広太の公演活動や、コンテンポラリー・ダンスでは日本唯一の公立のカンパニーである、金森穣率いるNoismなどの活動に参加したのち、現在、ウィリアム・フォーサイスが率いるドイツのフォーサイス・カンパニーで、中心的メンバーとして活躍している。フォーサイスのもとでは、表現が外に発散される西洋人とは違って内部へと沈潜してゆく踊り方や、しっとりとした情緒が高く評価され、フォーサイスの作品のラストシーンの、美しい照明に包まれた静謐を湛える踊りを任されるという。こういった外国人を魅了する日本的情緒に加え、さらに普遍的な、パートナーの酒井いわく「ピュアな心ゆえの踊りの透明感」が、島地の大きな魅力である。

 酒井はなは、新国立劇場のプリマバレリーナとして、開場した時からバレエ団をリードし、フリーになった現在も、名誉ダンサーとして時折この劇場に招かれて踊っている。新国立劇場開場時に、古典作品の主役をロシアの稀有の名舞踊手、亡きナターリャ・ドゥジンスカヤ等々に学んだことで、技や動きの美しさなど踊りが全面的にレベルアップし、かつ、表現の才能が、それ以前にも増して大きく開花した。かつて、演技力が大きくものを言う『ジゼル』の指導に新国立劇場にやってきたドゥジンスカヤにインタビューしたとき、「はなは私の言うことをすぐにとてもよく理解してくれて、期待通りの表現をしてくれる」と目を細めながら語っていたのをよく覚えている。

こうして、若手の時代に新国立劇場での『白鳥の湖』や『ジゼル』などの古典バレエ作品で大成功を収め、日本の代表的バレリーナと認められたのち、酒井の稀有な感情表現が最大限に発揮される演劇的なバレエ、『マノン』、『ロミオとジュリエット』等で観客を圧倒することにより、彼女は押しも押されぬ日本有数の、そして、新国立劇場に招かれてくる外国の世界的スターをも凌駕するほどの女優=バレリーナになった。
そのドラマティックなバレエの名手が、近年コンテンポラリー・ダンスにしばしば取り組み、好評を博している。コンテンポラリー・ダンスにはあまり感情表現を行わず淡々と踊った方がいい作品もあるが、酒井には、表現力がものを言う、そこはかとない情感を漂わせるコンテンポラリー・ダンス作品が似合う。パートナーの島地も、酒井の踊りのソウルフルな面、動きだけで舞台に様々な情景を描き出す特質に大きな魅力を感じており、新作の舞台でもそんな彼女の姿に出会いたいと語っている。

上演する新作の構想

このような実力派が共同振付をしている今回の作品で、まず二人が大切にしているのは、奇をてらった振付よりも、本能的な踊りの衝動から生まれた動きを緻密に積み上げて、とことん踊り込んで究極のクオリティにまで磨き上げること。それゆえ、作品の後半は、古典バレエ作品で言えば踊りの最大の見せ場となるグラン・パ・ド・ドゥ(主役男女の二人の踊りで、男女のデュエットで主に女性の美しさを見せる「アダージョ」、男女それぞれのソロである「ヴァリエーション」、男女二人で大技を見せる「コーダ」から成る形式)のようなシーンを創って、デュエットやソロの充実した踊りを見せたいと考えているという。まさに、彼らのような、極めて優れたダンサーでなければできない創作である。

 その一方で、少年のように好奇心に満ち豊かなアイデアをもっている島地の演出力を生かそうとしているのが前半。二人にお話をうかがった7月末は、まだあれこれ演出の可能性を模索している段階だったが、おそらくここに書かずに舞台でのお楽しみにとっておいた方がよいような、サプライズをいろいろ企んでいる。
 「あらゆる生命へのいとおしさ、その生命への賛歌」をダンスにしたいという二人のこのような新作は、きっと、やさしさに満ちた美しく尊いものになるに違いない。

●彩の国さいたま芸術劇場情報誌『埼玉アーツシアター通信』 2013年9月発行号より

島地保武(しまじ やすたけ)

日本大学芸術学部演劇学科演技コースに入学、加藤みや子に師事。山崎広太、上島雪夫、能美健志、鈴木稔、カルメン・ワーナー等の作品に参加した後、2004〜06年、金森穣率いるNoismに参加。06年、ウィリアム・フォーサイス率いる、ザ・フォーサイス・カンパニー(ドイツ・フランクフルト)に入団。日本での創作活動やワークショップにも、精力的に取り組んでいる。本プロジェクトより酒井はなとのユニット〈アルトノイ〉を始動、二人での共同創作を本格的に開始する。

酒井はな(さかい はな)

クラシック・バレエを畑佐俊明に師事。14歳で牧阿佐美バレエ団公演でキューピッド役に抜擢され一躍注目を浴びる。18歳で主役デビュー。以後主な作品で主役を務める。新国立劇場バレエ団設立と同時に移籍、柿落とし公演で主役を務める。コンテンポラリー作品やミュージカルにも積極的に挑戦し、クラシックを越えて類稀な存在感を示している。進化し続ける技術、表現力、品格ある舞台で観客を魅了する、日本を代表するバレエダンサーの一人。新国立劇場バレエ団名誉ダンサー。

≫〈アルトノイ〉特設サイト

 

公演概要

dancetoday2013

<公演日程>
2013/10/18(金)〜10/20(日) 彩の国さいたま芸術劇場 小ホール (埼玉県)

<演目>
『関かおり 新作』
振付・演出:関かおり
出演:関かおり、岩渕貞太 ほか

『島地保武+酒井はな 新作』
演出:島地保武
振付・出演:島地保武、酒井はな



2013-10-03 15:08 この記事だけ表示